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伊藤計劃記録 はてな版

『虐殺器官』『ハーモニー』『屍者の帝国』の劇場アニメ化を記念して、伊藤計劃氏の生前のブログから精選記事を抜粋公開します。

The Prince of Darkness

「恐怖の詩学/ジョン・カーペンター~人間は悪魔にも聖人にもなるんだ」

 

ヒーローというのは、目的がひとつしかない人物のことだ。

 

 とカーペンターは語る。「そのただひとつの目的がなんであるか、その目的が邪悪であるか軽薄であるかポジティヴであるかにかかわりなく、それがヒーローなんだ。」と。

 

 手帳を十五冊も持っているヒーローなんかに興味はないね。

 

 フィルムアート社の「バートン・オン・バートン」とか「クローネンバーグ・オン・クローネンバーグ」とか「スコセッシ・オン・スコセッシ」とかの、「映像作家が自身を語る」翻訳シリーズ。原著はシリーズじゃないとは思いますが。ちなみにこのラインナップの中ではクローネンバーグ・オン~が最高に面白い。

 というわけで、このシリーズにカーペンターの名が列せられることになったわけだが・・・最近、「映画の魔(高橋洋)」とこのカーペンター本、と映画より映画にまつわる書物の方に衝撃を受けっぱなしなのはちょっと危機的というか・・・俺って、観客として衰えつつあるんじゃないか、という恐怖を感じているんですが。たまたまいい映画に出会えてないだけかしら。

 まあそれはともかく、これは凄い本だ。映画それぞれのインタビューはいままでのこのシリーズの中では最もボリュームに乏しく、薄い。それが猛烈に残念ではあるが、仕方がない。もっと凄い本が出来たはず、とか言ってもはじまらない。これはこれで、じゅうぶん凄い。というのも、題材がカーペンターだからそれだけですごいのだ。

 薄いことは薄いけれど・・・訊いてほしいことはきっちり訊いてくれてますよみなさん!「どうしてゼイリブの格闘場面は10分もあるんですか?」そう!それだ!それを訊いてほしかったんだ!で、カーペンター曰く、長い喧嘩を撮りたかったし、それをできる肉体を持った役者がいたからだ!一ヶ月半もかかったが!とすがすがしいお答えをくださるカーペンター翁にもうただ平伏するしかないですよみなさん!「やりたかったし、できたから」これ以上にシンプルな解答があるだろうか!欲望、そう、あの長い長い喧嘩は欲望によって生まれたのだ。

 という楽しさとは別に、この本はカーペンターのストイックさを、力強さを、ズバリ端的に伝えてくれる本でもある。カーペンターの口から次のように語られるとき、ぼくは深く感動し、うちふるえる。

 

 わたしがアクション監督なのは、ただ次の意味においてだ。つまり、映画というのは、動いているときに、アクションを描いているときに、なにかが起きるときに、争いや相反する力があるときに、最高のものになるということだ。 

2004年11月15日 伊藤計劃

引用:http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/200411