伊藤計劃記録 はてな版

『虐殺器官』『ハーモニー』『屍者の帝国』の劇場アニメ化を記念して、伊藤計劃氏の生前のブログから精選記事を抜粋公開します。

明日の世界

よい年を探して

 年末は鹿島神宮へ初詣に行く。男だけで。年始は松本の方の温泉に行く。男だけで。

 絶望は深い。

 といいつつ、自分が本気で誰かに愛されるための正当なコストを支払っているかと言うとそうではなく、私の給料の大半は映画とDVDと書籍に消えている。先日もディッシュの「アジアの岸辺」とベスター「願い星・叶い星」、文庫で「潜水艦戦争」を買った。いわゆるキモオタというやつだ。そういえば昨日、コミケで知人たちと会っていたのだが、そこで衝撃の事実をきいた。ニートには年齢制限があるというのだ。34歳まで。俺は定義から言えばニートではないが、それでも34を過ぎれば一夜にして「かっこいいニートがカッコ悪い無職になる」という篠房氏の発言に心底打ちのめされた。俺は誰だ、だれだ、だれだ、とデビルマンの歌詞を実存的にマイナーチェンジして唄ってみたが事態は一向に改善しない。目の前ではサークルの知人(男)がタチコマが擬人化された少年となってバトーに玩ばれるタチコマ擬人化ショタ攻殻同人を開いて俺に見せてくれている。少年の耳にはインカムというかヘッドホンがあり、そこには小さな穴が3つブチ穴風に刻まれているのでタチコマだとわかる記号の役割を果たしている。この偉大なアイデアには正直してやられたという感慨を持ったのだが、それはそれとしていま有明で女性向けエロ同人誌を友人に見せられしてやられたと感じている俺はだれだ。絶望が深い。俺は誰だ。

 つまり、そのためには正当なコストを支払え、ということになる。困った。困りながら今日もこうしてはてなを書き、本を読む。どうしようもない。俺は本気ではないのだろうか。「ラース・フォン・トリアー~スティーグ・ビョークマンとの対話」によると、ラース・フォン・トリアーは病気パラノイアで、自分はいつもうん10種類の癌に犯されているという不安(というか確信)に苛まれているそうだ。このオッサンがヤバげな人間なのは知っていたけれど、この話でちょっと親近感が湧いた。

 年末、俺は友人と鹿島神宮へ初詣に行く。男だけで。年始は松本の方の温泉に行く。男だけで。

 じゃあ、また。

2004年12月31日 伊藤計劃

引用:http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/200412